エッセイのページ

初夏の贈り物

夏の初めにひとつの宅配便が届いた。
それは、さほど大きくはなく『こわれ物』『上』と表示された軽い箱だった。。
お中元にしては時期が早い。何かなと思いつつ一寸振ってみるとかさついた音がする。送り主を見てまさか・・・と、胸がドキドキし不安と期待でパッケージを解く手が震える。箱のふたを恐る恐る開けた。やっぱり・・・ホタルだあ!!

 数日前、自宅レッスンの時にホタルの話が出た。
この辺りでは見られないのよね〜と言うと「うちらの方ではなんぼでもいるよ」と一人がボソリ。さぞ空気が澄んでいて川の水もきれいなんだろう。

 私は、アメリカの田舎町アイオワ州デモインの友人宅で、ホタルの乱舞を見たことがある。
夜になると近所中が灯りを消し、息をひそめて庭先を見ると数え切れないホタル達のダンスが始まる。
最初はクイック クイック スロー スローと大きく輝き、その内に激しいジルバとなり、興奮のあまりスカイダイブをする。まるで流星のようだ。あっ 落っこちた! と思いきや、スルスルと枝を這う光のみが動き、それはそれは幻想的で、まるでおとぎ話の中に居るようだった。そんな話をすると
「うちらのホタルは、車のライトを照らすとなんぼでも寄ってくる」と、いささか現実的なお言葉。
宅配でもしようか などと会話が弾んだが話題が移行して・・・打ち切となった。

 まさか まさか本当にホタルを送ってくれるとは!
そっと取り出してみると、少し大きい目の瓶にガーゼでふたをし、底には、水を含ませたスポンジとつゆ草が入れてあり動くものがが見えた。しかし残念ながら数匹は・・・。
私はすぐお礼の電話をし、質問もした。
「何に入れ替えたらいい? 今から虫かごを買いに行こうとおもうけど」
虫かごは目が粗く出てしまうので、ペットボトルをカットした物がいいのでは との事なのでそのようにし、上部にネットをかぶせベランダの植木の茂みに置き、夜になるのを待った。
その夜、光は無かった。何度見に行っても光ってはくれなかった。

 次の日の夜だった。暗闇の中に光を大発見!
1,2,3,4・・数えてみると8光、確実に8匹の丸っこくて黄色い光が忙しなく動いている。時々、パッ! パッ!と瞬発する。雄 雌のラブコールらしい。
飛び交う面積が狭いためかぶつかりあって落っこちたりする。デモインのホタルのようにスルスルと枝を這うというよりは、しまった!と よじ上っている感じで笑ってしまう。。
 デモインの友人は今どうしているんだろう・・・。いろいろ思い巡らして見ていると、何時間経っても飽きたりはしない。
この送り主も、私の為に家族動員で河原へ行き、車のライトをハザードさせてホタルを誘き寄せてくれたんだろう。
人の為に、無償の愛情を注げる人がいるんだ〜。「喜んでくれるのが一番うれしい」と この人はいつも言う。私には出来るのだろうか・・・。

 初夏の夜の夢は一週間続いた。
輝きはだんだんか細くなり消えたり光ったり、それでもなお けなげに力を振り絞って発光する様子に、「ありがとう」 の言葉が自然に出た。
2007年初夏、心のこもった感動的な贈り物を、私は決し決し忘れないだろう。

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