エッセイのページ

脳ミソ腐りの日

  私には、脳ミソ腐りと証する日がある。これは主人と私にしか分からない隠語である。
「今日は脳ミソ腐りの日だからね」と言うと、朝、リハビリに行く主人は「うん 分かった」とニヤリ。私が一日中家に居るからと言う意味で安堵している。家で待っていると嬉しいとか。

 家にいるからといっても、でれ〜んとソファに寝そべっておせんべをかじっているのではなく、脳ミソが腐るほど勉強をしなければならない日なのだ。パソコンのである。
IT関係に弱い弱い私が、一念発起してパソコン教室に通い、訳が分かったのか分からないのかとにかくワードとエクセルを終了。おまけにホームページを持ってしまった。以後、先生に来てもらい特別授業を受けているのだけれども、ホームページの管理は大変で、私にとっては実に難しい。
毎月エッセイの追加。そして、メッシュフラワー&クラフトの新作品や猫のナナの写真を加工して更新。サムネイルページの編集などなど、衰えいく脳を刺激しつつ老体に鞭打って四苦八苦なのだ。

 疲れてくるとナナと戯れるか、観葉植物でジャングルと化しているベランダに出て、「どんなに大きくなってもいいから枯れないでね」と話しかけて気分転換をする
或る脳ミソ腐りの日、疲れ果ててふと思い立った。そうだ! 映画を見てこよう。かねてから見たい映画があった。車で走れば主人が帰宅する迄には帰れるだろう。ってな訳で、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマン主演の『最高の人生の見つけ方』を見に行った。
癌で入院した病室で初老の2人が出会う。共に余命半年と宣告されるが、ベッドでその時を待つよりは、やっておきたい事をリストアップし、それを実現させる為に人生最高の旅に出る・・・っというストーリーだった。
癌の告知は私にとっても必要かも・・っと痛感し、帰宅後又、すましてパソコンに向かった。

 2時になって主人が帰宅。浮かぬ顔をしている。
「どうして電話にでなかった?」と言う。
「えっ」っと絶句して思わず嘘をついてしまった。
「今日は、神経を集中して勉強したかったので電源を切っておいたの、ごめんごめん なんで?」
聞けば、リハビリの最中に気分が悪くなり、主治医が何度も私の携帯に緊急連絡をしたが繋がらない。おまけに、気の置けないリハビリ仲間の一人に、「ダンナが出かけている間に奥様は彼氏とデートかも」と冷やかされたとぼやいている。

 何となく気まずい思いで昼食をとった。どうして間が悪く緊急事態なんか起こるんだ? そして、なぜ嘘をついてしまったのだろう・・・との思いが頭の中をくるくるとめぐる。
ひょっとしたら、酒やタバコ、そして自由に歩く事などの楽しみを奪われ、ただひたすらリハビリに明け暮れしている主人の心の叫びだろうか?
私が、気分転換をしたいということは主人も同じかも知れない。ごめん 嘘をついたりして・・・。
映画や森の散策に連れ出そう。時には一緒に宝くじでも買いに行こう。ナナがにゃ〜にゃア〜と鳴いて仲裁に入るくらいの派手な喧嘩もしよう。脳ミソが腐るほど勉強が必要なパソコンの話も教えてあげよう。そして、そして・・・脳ミソ腐りと証した日に、嘘をついた事を素直に謝ろう。

Copyright©花工房NAO All Rights Reserved.