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ジュンコの留学奮闘記(4)

 ☆ セント・フランシスハイスクール ☆

 真夜中、けたたましい電話のベルで目が覚めた。それは懐かしいジュンコからだった。が、いよいよ今日から学校が始まり、「もうすぐスクールバスが来るんだけど、行くのが怖い・・・」と、不安を訴えるものだった。そんな・・・私は、ジュンコを叱咤激励し、とにかく電話をきった。しかし・・・異郷の地で、ポツンと疎外感に包まれている姿がなまなましく想像されて、居ても立ってもいられない。だからといって何をするすべも無く、ただ、(あの子ならきっと大丈夫だ)と自分に言い聞かせて自らを奮い立たせた。しかし其の日は、私にとって耐え難い最も長い一日となった。

 一方ジュンコは、公立セント・フランシスハイスクールのSOPHOMORE(10年生・日本の高校1年生)に編入され、クワイヤー(聖歌隊)とランチ以外は頼りのタミーと別々のクラスとなった。

 始業式は、いきなりジャズバンドの演奏で始まり、チアーガールズが華々しく色を添え、格好良さをアピールしたシニア・ヴォーカルズの歌があって、全て生徒会サイドで進行した。
校長のスピーチはたった5分で終わり、それはそれはゾクゾクするほど楽しいセレモニーだった。
そこには、自主性を重んじ自由でのびのびしたアメリカがあり、ジュンコは初めて(アメリカに居るんだ!)と実感し、エキサイトした。

 式後、初授業のMr.フレミングのクラスは、新入者のジュンコには一瞥もなく始まった。ワープロの操作法と指の位置の説明があり、さあ練習しなさいと言う。自己紹介等を用意していたジュンコとしては焦った。
教科書は難しくて読めないし、タイピングは生まれて初めてだったので、ポツンポツンと打ってみた。うん? 動かない!血がかっと頭にのぼり、体中に冷や汗がたら〜り。そして・・・なーんだ電源スイッチの入っていないのに気が付いた。30分を過ぎても、もたもたしているジュンコは、ついに先生の機嫌を損ね怒鳴りつけられてしまった。そこで、自分は日本からの留学生で云々と必死で訴えたが、アメリカに来る以上英語は理解出来て当然だと、容赦なく宿題の提出を求められた。

 終業のベルが鳴ると同時に、生徒達は自分のロッカーまでダッシュする。休み時間は5分しかない。ジュンコは短いコンパスで廊下を走りに走った。次のクワイヤーのクラスで、タミーが「早く早く!」と手を振っている。ジュンコは、タミーの顔を見るとなぜか涙が溢れ出て、その大きな体がかすんで見えなくなった。 つづく

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