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ジュンコの留学奮闘記(7)

☆ ハローウィン ☆

天国の死者の霊を祭るHALLOWMAS の前夜祭であるハローウィン(10月31日)は、アメリカの子供達にとってクリスマスの次に待ち遠しくて楽しい日だ。
どの家も、JACK-O’-LANTERN といって、パンプキンでちょうちんを作り、子供達は仮装して各家庭へお菓子を貰いに回る。ジュンコもいそいそとタミーと一緒にかぼちゃを買いに出かけた。かぼちゃといっても日本のそれとは異なり、スイカよりももっと大きくオレンジ色だ。
 
 まず、上の部分を10cmくらいジグザグにカットしふたのようにする。種を全部取り出し正面に好みの顔を描きカッターナイフで彫刻のようにくり抜く。
ジュンコが日本のちょうちんおばけを想像して口裂け男を作ったら、タミーのはもっとユーモラスな顔だったので「日本とアメリカは違うね」と、二人はころげ回って大笑いをした。この頃、二人はなぜか急に親しくなり、まるで姉妹のようになっていた。罵り合いの喧嘩をしたことで、かえって二人の間にあった壁が取り除けたようだ。

 かぼちゃちょうちんに火を灯して玄関先に置き、仮装をして森に集まる事になりジュンコはハタと困ってしまった。仮装なんてしたことがない。仕方がないので、有り合わせの網タイツやブラウスと、派手な化粧でバニーガールの格好をしたが、どうみてもウエイトレスにしか見えない!え〜い、この際なんでもいいやと集合場所に走った。
ぎゃあ〜 ドラキュラがいる! 狼男がいる! 片目のジャックに刺青女。性別不明の怪物?に田舎のおっさんなどなど。誰が誰やらさっぱり分からず暗くなった森は大騒ぎだ。

"TRICK OR TREAT" "HAPPY HALLOWEEN" と、それぞれが叫びながら友達の車に分乗し、親類や近所を回りお菓子の洪水に大はしゃぎをして、日頃のダイエットも何のそのこの日ばかりは大いに食べて騒いだ。

 ミネソタの秋はとても短い。ハローウィンが終わると、冬はもうそこまで来ていた。
今年も雪が深くなりそうだとセリン家では暖炉に必要な薪割りに余念がない。ジュンコも地下室に薪を運びながら、自分が確実にこの家族の一員になってきていることに気がついていた。そして、もう日本を思い出すこともなかった。

その頃、私は自分自身に再挑戦すべくジャズコンサートの準備に、日夜奔走していた。
つづく

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