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ジュンコの留学奮闘記(8)

☆ トライ アゲイン コンサート ☆

 ジュンコが、交換留学生としてミネソタ州のセリン家にホームステイするようになって4ヶ月。ホームシックになったりホストシスターのタミーと大喧嘩をしたり、セントフランシスハイスクールの出来事の様子を知る事で、彼女の成長振りを垣間見ることが出来てひとまず安心した。ジュンコからはもう、何んの連絡もこなくなった。

 さて、私の自分への再挑戦のジャズコンサート計画は、多くの人々の支えで12月7日と決定し、「トライ アゲイン コンサート」とタイトルも決まった。会場は、知人の紹介で大阪の豊中市が一望に見渡せる小高い丘の上にあるこじんまりとしたクラブとなった。
しかし いざ色々具体化してくると、無謀な計画に後悔をし始めていた。
思えば 結婚し歌を断念してから17年も経っている。歌詞を覚えているかリズム感を失っていないか、そして私の歌がはたして人々に受け入れられるのだろうか・・・。本番までに2ケ月しかない!
現役の頃、一緒に仕事をしていた名古屋のミュージッシャン達に連絡を取り事情を説明すると、一肌脱いでくれる事となり,ヴォイストレーニングや打ち合わせのため名古屋通いをし、選曲の段階になってはた と困ってしまった。会場となるクラブにはピアノだけしかない。トリオでするにはドラムスやベースを運搬する費用の捻出が難しい。仕方なくバック演奏はピアノとリズムマシンで雰囲気を出せる曲とした。
ジャズのスタンダードナンバーから「Misty」「Someone to watch over me」「September in the rain」「Summertime」をはじめミュージカルナンバーやラテン曲を加え全20曲となった。

 ライブ当日は、ジャズピアニストのSさんに来坂してもらい、チケットが完売した94席の小さなクラブは友人や知人で熱気ムンムンだった。
Sさんと私はステージに立ち、ピアノの「G」のコードでアルページュがはじまった。
♪Look at me〜 I'm as helpless as a kitten up a tree〜♪ 私は、バラード風に「Misty」を歌いだした。
スポットライトを浴びた瞬間、体中に電流がほとばしり主婦でも母でも妻ではなく、昔のジャズシンガーにもどった。

 多くの友情に支えられて開催したジャズライブは、まさに自分自身への再挑戦だった。そして、それは自分の人生の中で最も感動に満ちた記念すべき日となった。
子育てに奔走し、歌を断念して17年。ジュンコも既に自分の人生を歩き始めている。もう、先導する必要はない。後ろから温かく見守ってやればいい。今、私は子供から自立し自分の為の生き方を考える折り返し点に立って、さあこれからスタートなんだなと、改めて胸を熱くしたコンサートだった。

 ふと気がつくと、しまった! もう12月だ。ジュンコやタミーにクリスマスカードやプレゼントの用意が未だだ。忙しかったせいもあるけれど、忘れてしまうほどジュンコのことはもう心配しなくなっていた。
ミネソタ州の皆が住んでいるヴィレッジは、今年も大雪に見舞われているんだろうか・・・。 つづく

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